『皇帝のいない八月』 小林久三 [ミステリー]
★★★☆☆
及第点な作品。日本が平和になり過ぎたのか、ピンときません。サラリーマン化した自衛隊にこれだけの気概があるとも思えないし。そもそも、三島が市ヶ谷で自決したときでさえ、野次がとんでいたんですからね。
小説としてはほんの少しおとぎ話的なところもあり、後半もかなり失速しますが、アイデアとしてはよしというところでしょうか。本職としては、もう少しだけ主人公側が窮地に追い込まれるところまでいったほうが、もっと緊迫感がでて面白かったのではとも思いますが、そうすると収拾をつけるのが困難だと思ったのかもしれません。以上。
『二度のお別れ』 黒川博行 [ミステリー]
★★★☆☆
及第点な作品。第一回サントリーミステリー大賞佳作。構成からすると、本格作品です。ただ、奇想という点では物足りないので、あとがきにも書いてありましたが「華がない」という評になったのだろうと思います。
それでも、作品としては安心して読むことができます。おっ──というところはありませんが、出来はいいほうだと思います。しかし、ラストがいただけない。これは本職の個人的な意見ですが、本格であればラスト(いわば謎とき)は読者の誰もが納得のできるよう、くどいぐらいに書くべきなんだと思います。そのへん、ちょっと手を抜いた感じがしますが、本作品は公募作品ですので、時間がなく書き急いだんでしょうか。以上。
『壺中の天国』 倉知淳 [ミステリー]
★★★☆☆
及第点な作品。第一回本格ミステリ大賞受賞作。舞台、構成、伏線は文句なし──なんですけど、リアリティがないんですよ。いえ、本職は決してミステリーにリアルを求める者ではありません。でも、リアリティは欲しいのです。
人が殺されているのに、その事態の緊迫感がいまいち伝わってこないのです。結局、たぶんなんですが、登場人物が記号でしかないということなんでしょう。ここにほんの少しでも血が通っていれば、これはおそらく大傑作です。
テーマは最高ですからね。本当に惜しいです。以上。
『北京原人の日』 鯨統一郎 [ミステリー]
★★★☆☆
及第点な作品。著者の長編を何冊か読んでいるけれど、どうしてもSF・ユーモア・バカミスという印象しか残らない。でも、これは2/3まではとてもよかったです。最後にしゅるしゅる尻つぼみという感じでしたが。
やはり、『邪馬台国はどこですか?』の印象が強すぎるんでしょうね。おそらく、ファンはあの切れ味のままの長編を期待しているんだと思うんですが、どうですか。以上。
※私信……少し旅に出ていました。これから頑張って、コンスタントにいけるよう頑張ります。
『カレイドスコープ島』 霧舎巧 [ミステリー]
★★★☆☆
及第点な作品。デビュー作『ドッペルゲンガー宮』よりは、かなり造りがよくなっていました。書き下ろしのためか、最後も余裕をもって締めていましたし。
全体的に、本格ミステリー特有の作り込んでいる感が漂ってくるので、これだけやってくれるといいですね。
やっぱり、本格物は現実感がないほうがいいでしょうね。そのほうが、吹っ切れて読めるからかもしれません。
この作品によって、次作も読むことが決定しました。ただ、何ヶ月後に順番がまわってくるかは未定です。以上。